教育情報セキュリティポリシー策定と補助金令和9年度概算要求を解説
教職員が「この資料をどこに保存してよいか」「生成AIに入力してよいか」をルールに照らして判断できるように。そのルールとなる教育情報セキュリティポリシーについて、令和9年度概算要求で示された補助金の条件とあわせて解説します。

令和8年は、企業から大規模な個人情報の漏えいが相次いで公表されています。東京商工リサーチの調査では、上場企業とその子会社が公表した100万件以上の漏えいは、10月5日までに10件となり、令和7年の1年間の6件を上回りました。
学校でも、クラウドの共有フォルダの設定を誤り、児童も閲覧できる場所に指導記録を保存してしまった事案が公表されています。クラウドや生成AIの利用が広がるにつれて、誰が、どの情報を、どの環境で扱えるのかを、教育委員会と学校の間であらかじめ決めておく必要が高まっています。この取り決めを文書にしたものが、教育情報セキュリティポリシーです。ルールが明確であれば、教職員は迷わずにICTを活用できます。
令和9年度の文部科学省概算要求では、ポリシーを策定した自治体が行うセキュリティ強化への支援が示されました。要求段階の内容では、補助割合は2分の1で、対策の要件は令和9年3月公表予定の文部科学省ガイドラインで示されます。この記事では、ポリシーが学校の情報管理で果たす役割を確認したうえで、概算要求の内容、補助を検討する際の確認点、ポリシーの策定・改定から学校での運用・研修までの進め方を説明します。
この記事を読むとわかること
— 学校の情報管理で教育情報セキュリティポリシーが果たす役割
— 令和9年度概算要求で示されたセキュリティ強化支援の内容
— ポリシー策定・改定の支援とセキュリティ対策への支援の違い
— 学校で運用するための準備と外部に相談できる支援内容
— 新しいガイドラインの公表前に進められる準備
目次
教育情報セキュリティポリシーで学校の情報管理を支える
一般社団法人AIイノベーション&次世代教育ネットワーク(AISEN)の調査報告書では、令和7年度に学校・教育機関で公表された個人情報の漏えい事故は190件でした。近年は毎年200件前後で推移しています。公表された事案の多くは、書類の置き忘れ、メールの添付ファイルの確認漏れ、クラウドの共有範囲の設定など、日常の業務の中で起きています。
漏えいしたときの影響が大きい
学校が扱う情報には、健康状態や生徒指導の記録など、本人や保護者が他人に知られたくない情報が多く含まれます。漏えいした場合は、児童生徒と保護者への影響に加えて、学校と教育委員会が事実確認、保護者への説明、公表、再発防止策の策定に対応することになります。
ルールが明確だと、教職員が迷わずに使える
日常の業務で起きる事故は、どの学校でも起こりえます。個人の注意だけに頼らず、ルールと仕組みで支えることが有効です。教育情報セキュリティポリシーでは、たとえば次の事項を定めます。
学校が扱う情報を、重要度に応じてどう分類するか
重要度ごとに、保存できる場所とアクセスできる人をどうするか
書類やデータを校外へ持ち出すときの条件
クラウドサービスや生成AIに入力してよい情報の範囲
これらが決まっていれば、教職員は「この資料をこのフォルダで共有してよいか」「この情報を生成AIに入力してよいか」を、ルールに照らして判断できます。学校での具体的な扱いは、情報資産台帳と実施手順に整理して各校に示します。
国も、ポリシーの策定を前提として、学校のセキュリティ対策を予算で支援する方針を示しています。次の節で、その内容を確認します。
令和9年度概算要求で示された学校セキュリティへの支援
令和9年度概算要求の全体像は、別の記事で解説しています。この節では、教育情報セキュリティポリシーに関係する支援に絞って説明します。
文部科学省の「令和9年度概算要求のポイント」冊子13ページでは、「学校現場における安全かつ主体的なAI活用環境整備」に884億円を要求しています。そのうち「AI利活用に向けたクラウド環境整備」は778億円です。アクセス制御やデータ保護などの対策を通じて、教職員が安心してAIを校務に活用できる環境の整備を目指しています。
この具体策として、別の詳細資料「令和9年度 GIGAスクール構想関係予算概算要求の概要」には、「AI利活用に向けたクラウド環境整備(学校セキュリティの確保)」が示されています。ポリシーを策定した自治体が実施するセキュリティ強化への支援で、要求段階の条件は次のとおりです。
確認項目 | 概算要求に示された内容 |
事業主体 | 都道府県・市町村 |
支援の対象 | 教育情報セキュリティポリシーを策定した自治体のセキュリティ強化に係る費用 |
補助割合 | 2分の1 |
予算単価 | 1校当たり1,000万円(事業費ベース) |
対策の要件 | 令和9年3月公表予定の文部科学省ガイドラインに示す要件を満たす対策の実施に係る費用等 |
1校当たり1,000万円は、補助金の受取額ではなく、事業費ベースの予算単価です。また、778億円は、次世代校務DX環境の整備等を含む、クラウド環境整備全体の要求額です。
本記事は2026年10月27日時点の公表資料に基づきます。令和9年度分は概算要求段階のため、予算額・対象経費・申請条件等は、今後の予算成立や交付要綱・公募要領等で確認する必要があります。
ポリシー策定への補助は別の支援メニューも確認する
補助の活用を考える際は、「ポリシーを策定・改定するための支援」と、「策定した自治体がセキュリティ対策を実施するための支援」を分けて確認すると、予算の検討を進めやすくなります。
前節の「学校セキュリティの確保」は、ポリシー策定済みの自治体による対策への支援です。この記述だけで、ポリシー策定の委託費も同じ条件で補助されるとは判断できません。
一方、文部科学省の令和8年度予算案資料では、GIGAスクール構想支援体制整備事業の「学校DXのための基盤構築」に、教育情報セキュリティポリシーの策定・改定や、専門家への相談などに要する経費への支援が明記されています。令和9年度概算要求にも「学校DXのための基盤構築」の項目がありますが、策定・改定の委託費を含め、個々の経費が対象になるかは当該年度の条件を確かめる必要があります。
教育委員会内で検討する際は、依頼したい業務を「ポリシーの策定・改定」「台帳や手順の整備」「研修」「機器・サービス等のセキュリティ対策」に分け、補助対象となる範囲や契約・着手時期を確認しておくとよいでしょう。
教育情報セキュリティポリシーの策定・改定で、どの業務を外部に相談できるか整理したい方は、エデュテクノロジーのサービス資料をご覧ください。支援の進め方と成果物、教育委員会との役割分担をご確認いただけます。
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ポリシーを学校で使える形に整えるための確認点
教育情報セキュリティポリシーは、情報を守るための基本方針と対策の基準を定めるものです。文部科学省は、教育委員会等による策定や見直しの参考として、ガイドラインとハンドブックを公開しています。文書の内容を各校の業務に結び付けるには、学校で使う様式や説明資料もあわせて考えることが大切です。
現在のICT環境とルールの対応を確認する
既にポリシーがある場合は、端末、クラウドサービス、ネットワークの構成が現在の規定と対応しているかを確認します。生成AIの利用についても、利用できるアカウントや入力する情報の範囲など、学校から相談が寄せられる場面を整理しておくと、見直す論点を具体化できます。
未策定の場合は、自治体全体の情報セキュリティ方針との整合を確認しながら、学校が扱う情報や利用環境に合う対策基準を検討します。
既にポリシーがある場合も未策定の場合も、自治体全体のポリシーと扱いが異なる部分は、情報政策を担当する部局との調整が必要です。誰がどの時期に調整するかも、早めに決めておきます。
台帳と実施手順を学校が記入できる形にする
ポリシーに定めた内容を運用に移すには、情報資産台帳や実施手順の準備も必要です。情報資産台帳は、扱う情報やシステム、保管場所などを整理するための一覧です。
白紙の様式を配る前に、教育委員会で共通項目や記入例を用意し、各校に確認してもらう範囲を決めておく方法があります。学校ごとの差を記入する欄と共通ルールを分けることで、依頼内容も説明しやすくなります。
教職員への周知と点検まで計画する
教職員への説明では、条文だけでなく、情報の共有や端末の持ち出しなど、実際の業務でどう行動するかを伝えます。研修の受講状況や理解度を把握する方法も、実施前に決めておきたい点です。
また、情報資産台帳や自己点検の項目は、翌年度以降の確認にも使います。担当者の異動やサービスの変更があっても更新できるよう、見直しを担当する人や時期を整理しておきましょう。
新しいガイドラインの公表前に進められる準備
概算要求では、補助の対象となる対策の要件を、令和9年3月公表予定の文部科学省ガイドラインで示すとしています。ガイドラインの公表を待ってから検討を始めると、予算化や調達の準備に使える期間が短くなります。
現状の把握、情報資産の洗い出し、学校での運用実態の調査は、ガイドラインの内容によらず必要になる作業です。これらを先に進めておき、条文や対策基準はガイドラインの公表後に照合して確定する、という順序で計画できます。
策定から運用と研修までを支援するサービス
エデュテクノロジーでは、教育委員会向けに「教育情報セキュリティポリシー策定・改定支援サービス」を提供しています。各教育委員会のICT環境を確認し、次の4段階で、ポリシー本体から学校で使う様式・教材までを整えます。
段階 | 主な支援内容 |
1 現状を把握する | 現行資料の確認、ヒアリング、学校の実態調査 |
2 ポリシーをつくる | 国の基準との照合、条文ドラフト、協議・修正、新旧対照表 |
3 運用を整える | 情報資産の分類・取扱い運用表、標準情報資産台帳、実施手順のひな形、監査・自己点検項目 |
4 現場に定着させる | 職員向け説明資料、eラーニング教材、確認テスト、受講状況の把握 |
学校が使う台帳は、情報資産をあらかじめ一覧化し、選択肢や記入例を入れた形で用意します。実施手順もひな形を作成し、各校の事情に関する部分を追記する進め方です。eラーニングでは、オンデマンド動画と確認テストを通じて、受講状況や理解度を把握します。
教育委員会には、現行資料の提供、方針の判断、各校や関係部局との調整、所定の決定・決裁手続きをお願いします。サービスの標準期間は契約から6か月です。対象範囲や協議の進め方を確認し、自治体の予算・調達スケジュールとあわせて計画します。
生成AIの具体的な利用ルールを別冊に整理する支援は、オプションとしてご相談いただけます。費用は個別のお見積りです。本サービスの各経費が補助対象となるかは、交付要綱等に基づく確認が必要になります。
まずは策定状況と必要な支援の範囲を整理する
令和9年度概算要求では、学校での安全なAI活用を支える環境整備と、その前提となるポリシーの策定が関連づけられています。補助制度の詳細を確認しながら、現行の規定、各校の運用、今後導入する環境を照らし合わせておくことが、次の検討につながります。
その際は、条文の作成だけでなく、学校で使う台帳や実施手順、教職員への説明・研修まで、必要な作業を整理してみてください。教育委員会で進めることと、外部の支援を活用したいことを分けると、相談の範囲も具体的になります。
補助制度の条件が確定するまでの間も、現状の把握や情報資産の洗い出しは進められます。予算の確定を待たずに準備を始めておくと、補助の公募が始まった後の計画も立てやすくなります。
策定・改定をどこから進めるか、学校での運用まで何を用意するかを検討中の方へ。エデュテクノロジーの「教育情報セキュリティポリシー策定・改定支援サービスのご案内」では、成果物、標準スケジュール、役割分担、研修の進め方をまとめています。自治体内での検討や、支援内容の比較にご活用ください。
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よくある質問
Q.教育情報セキュリティポリシーとは何ですか
教育委員会と学校が扱う情報を守るための基本方針と、対策の基準を定めた文書です。文部科学省は、策定や見直しの参考として「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を公開しています。
Q.ポリシーの策定費用は補助の対象になりますか
令和9年度概算要求の「学校セキュリティの確保」は、ポリシーを策定した自治体が行うセキュリティ対策への支援です。この記述だけでは、ポリシー策定の委託費が対象になるかは判断できません。令和8年度予算案資料では「学校DXのための基盤構築」で策定・改定の経費への支援が示されているため、当該年度の条件を確認してください。
Q.新しいガイドラインの公表を待ってから着手したほうがよいですか
現状の把握、情報資産の洗い出し、学校の運用実態の調査は、ガイドラインの内容によらず必要な作業です。これらを先に進め、条文や対策基準はガイドラインの公表後に照合して確定する進め方をとれます。
この記事の執筆者

阪上 吉宏
株式会社エデュテクノロジー 代表取締役
IT企業を経て、2007年に Apple に入社。教育部門の立ち上げメンバーとして多くの教育機関の一人一台導入に関わる。世界中の授業を見てきた経験を日本に還元すべく、2014年に株式会社エデュテクノロジーを創業。



