top of page

【PISA2025のポイント】AI利用と成績の関係をOECDは「複雑」と整理 用途と頻度で変わる4つの結果

執筆者の写真: Makino Ayano
Makino Ayano
7 時間前
読了時間: 8分

📌 この記事の要点

・OECDは、AI利用と生徒の科学コンピテンシーの関係について「複雑である」と記しています

・要約・下書き・予備的な調査といった特定の作業については、AIを利用しない生徒のほうが成績が高い傾向にあります。要約と予備的な調査では、利用者の中で月1回から週2回程度の利用者が、それより少ない利用者と毎日利用する生徒の両方を上回ります(下書きでは差は小さい)

・「学習を助けてもらうため」という用途では、週1〜2回程度の利用者は、社会経済文化的背景(ESCS)を考慮すると非利用者と同程度でした

・学校でAI生成情報の質を評価することを学ぶ機会があり、かつAIを学習の助けとして適度に利用する生徒は、科学コンピテンシーの平均得点が高い傾向にあります

・その学習機会を経験した生徒はOECD平均で約6割ですが、社会経済的に恵まれない生徒ほど機会が少なく、OECDは「AIデバイド」の可能性を指摘しています

・OECDはこれらを相関として示しており、因果関係は特定できないと明記しています


文部科学省・国立教育政策研究所は令和8年9月8日、「OECD生徒の学習到達度調査(PISA2025)のポイント」を公表しました。あわせて、OECDの報告書「PISA 2025 Results (Volume I): Future-Ready Students」も公開されています。


前回の記事では、日本の学校の勉強におけるAI利用頻度がOECD加盟38か国中38位であることを取り上げました。OECDの報告書は、AI利用と成績の関係を用途と頻度に分けて示し、単一の結論は出していません。この記事では、報告書が示した結果と、報告書自身が付けている留保をまとめます。



1. 前提 4つの用途と、どのくらい使われているか


PISA2025では、生徒に「学校の勉強で次の活動を行うために、人工知能チャットボット(例:ChatGPT)をどのくらい利用しますか」と、4つの用途を尋ねています。


【調査結果のポイント】

  • 用途は「学習を助けてもらうため」「新しいテーマについての予備的な研究を行うため」「文章を作成する課題の下書きをするため」「読まなくてはいけない文章を要約するため」の4つです

  • OECD平均で最も多く報告された用途は「学習を助けてもらうため」で、次いで予備的な調査、下書き、要約の順でした

  • 多くの国・地域で利用は広がっている一方、ほぼ毎日という頻度の利用はOECD平均で5人に1人にとどまります。20の国・地域では、要約の用途について「年に1〜2回以下」と答えた生徒が過半数を占めました


2. 利用頻度と成績 用途によって関係が異なる


OECD報告書の第4章(Figure I.4.13)は、用途別・頻度別の科学コンピテンシーの平均得点を示しています。


【調査結果のポイント】

  • 特定の作業(要約・下書き・予備的な調査)については、AIを利用しない生徒が、利用する生徒を上回る傾向にあります

  • 要約と予備的な調査では、利用者の中で月1回から週2回程度の利用者が、年に2回以下の利用者と、ほぼ毎日利用する生徒の両方を上回ります。ただし下書きの用途では、この差は明確ではありません

  • 「学習を助けてもらうため」という一般的な用途では、社会経済文化的背景(ESCS)を考慮すると、週1〜2回程度の利用者は非利用者と同程度でした。ほぼ毎日利用する生徒と、月2回以下の利用者は非利用者を下回ります


OECDは、これらの関係が「必ずしもAI利用が科学の成績に負の影響を与えることを意味しない」としたうえで、誰がAIを採用し、どのように使っているかという複雑な組み合わせを反映している可能性があると記しています。同じ箇所で、適度で意図的なAI利用は成績と正の関係にありうるとも述べています。



3. デジタル・リソース全般にも見られる傾向




同様の傾向は、AIに限らずデジタル・リソース全般についても報告されています。


【調査結果のポイント】

  • 学校での学習活動においてデジタル・リソースを適度に使用する場合、科学コンピテンシーの平均得点は高い傾向が見られます

  • 一方、使用しない場合も、長時間使用する場合も、平均得点は低い傾向にあります

  • この傾向は日本・OECD平均に共通して確認されています。なお日本の回答のうち「5時間より多く7時間以下」「7時間より多い」は、回答した生徒数が少ないため解釈に留意が必要とされています




4. 学習機会との組み合わせ 質を評価する経験がある場合



PISA2025では、生徒に「今年度、学校の授業でデジタル・リソースを使って、人工知能チャットボットで生成された情報の質を評価することをどのくらい行ったか」も尋ねています。


国立教育政策研究所は、「PISA2025のポイント」でこの結果を次のようにまとめています。

学校で、AIによって生成された情報の質を評価することを学ぶ機会があり、かつ、AIを学習の助けとして適度に利用する生徒は、そうでない生徒に比べて、科学コンピテンシーの平均得点が高い傾向にある。

OECDの報告書は、学校でAIに関する学習機会がある生徒に限れば、AIを週1〜2回以上利用する生徒が、非利用者や月2回以下の利用者をわずかに上回ると記しています。


【学習機会に関する調査結果】(OECD報告書 第4章 Box I.4.2)

  • OECD平均で約6割の生徒が、授業でAI生成情報の質を評価する課題に取り組んだと回答しています。国・地域による幅は31%から80%超です

  • そのうち46%が「時々」、約33%が「よく」、22%が「とてもよく」と回答しました

  • 一方、オンライン情報一般の質を評価する課題については、約8割の生徒が経験したと回答しています


OECDは、これらの結果について因果関係を判断できるものではないとしたうえで、すべての生徒に対する的を絞った指導が、AIへの批判的な関与を強める可能性を示すものであるとしています。あわせて、AIツールへのアクセスを拡大するだけでは、適切で効果的な使い方に関する指導への並行した投資がない限り、効果は生まれそうにないと記しています。


5. 留意点 背景の違いと「AIデバイド」


利用頻度による成績の違いは、生徒の背景や学習に対する姿勢の違いを反映している可能性があります。OECDは次の点を挙げています。


【背景と留意点】

  • AIを学校の勉強で利用しないと回答した生徒は、社会経済的に不利な背景を持つ層に多い傾向があります。端末や安定した通信環境、有料のAIツールへのアクセスが限られていることが背景として考えられる、とOECDは述べています

  • 逆に、AIを頻繁に利用する生徒は、社会経済的に恵まれた背景を持つ層に多い傾向があります。ただしOECDは、社会経済的背景だけでは利用者間の成績の違いを完全には説明できないとしています

  • AI生成情報の質を評価する課題に取り組む機会も、社会経済的に恵まれない生徒ほど少ない傾向にあります。OECDはこの点について、詳細な検討と的を絞った介入が必要だとしています

  • 学習に対する姿勢にも違いが見られます。「助けを求めること」の指標は、要約や下書きなどの特定用途では非利用者のほうが低頻度利用者より高く、「学習を助けてもらうため」では週1〜2回以上の利用者が非利用者より高いという、用途で逆の傾向を示しています。また好奇心の指標は、用途にかかわらず、毎日利用すると回答した生徒で高い傾向にあります。OECDは、AIが好奇心の高い生徒に探究の機会を与えているのか、AIの利用が好奇心の育成を支えうるのか、さらなる検討が必要だとしています



6. 総括


PISA2025のデータから言えるのは、AI利用と成績の関係が用途と頻度によって異なること、そして学校での学習機会と組み合わせたときに傾向が変わることです。一方で、因果関係は特定されておらず、「AIを使えば成績が上がる」とも「AIを使うと成績が下がる」とも、この調査からは言えません。


文部科学省は、PISA2025の調査結果を踏まえた施策として、学校現場において生成AIが適切に利活用されるようガイドラインの改定を行うとともに、安全かつ主体的にAIを活用できる環境の構築に向けた取組(教育分野特化AIに関する実証研究等)を推進するとしています。また次期学習指導要領に向けた検討では、情報の真偽や偏りの吟味、判断の留保、デジタルの賢い使い方と距離の置き方をはじめとする、メディアリテラシーや情報モラルの育成を図るとしています。


日本の生徒のAI利用頻度はOECD加盟国の中で最も少ない水準にありますが、OECDの報告の通りAIツールへのアクセスを広げるだけでは効果が見込めず、適切な使い方の指導への投資が必要でしょう。


出典



✍️執筆者



阪上 吉宏(株式会社エデュテクノロジー 代表取締役)

IT企業を経て、2007年に Apple に入社。教育部門の立ち上げメンバーとして多くの教育機関の一人一台導入に関わる。世界中の授業を見てきた経験を日本に還元すべく、2014年に株式会社エデュテクノロジーを創業。




株式会社エデュテクノロジーの関連支援サービス


生成AIガイドライン策定支援

  • 文部科学省ガイドラインの改定を踏まえ、自治体・学校の実情に合わせた利用方針の策定を支援します


教職員向け研修・ウェビナー

  • 生成AIの利活用と情報セキュリティの留意点を、現場の事例に即してお伝えします


GIGA第2期の環境整備コンサルティング

  • 共同調達・ネットワーク改善・端末更新の計画策定を支援します


ICT活用状況の可視化支援

  • 校内アンケートによる活用実態の把握と、教科別の活用設計をご提案します






 
 
 

コメント


bottom of page