「教える」から「共に探究する」へ。ルーブリックと生成AIが引き出す、新しい教師の在り方

探究学習では、生徒が自分で問いを立て、試行錯誤しながら学びを深めていくことが大切です。その過程で先生には、知識を教えるだけでなく、生徒と一緒に考え、学びを支える「伴走者」としての役割も求められます。
前回の記事では、三重県立昴学園高等学校の山﨑恵介先生による、ルーブリックを活用した探究学習の評価実践をご紹介しました。
同校では、先生方が育てたい力を言語化し、評価の観点を共有することで、生徒自身が現在地を確かめ、次の行動を考えるための「羅針盤」としてルーブリックを活用しています。
では、生徒の学び方が変わるとき、先生自身の役割にはどのような変化が生まれるのでしょうか。
今回はその後編として、ルーブリックの活用を通じて変化した山﨑先生の指導観と、生徒と共に探究を楽しむ実践をご紹介します。さらに、私たちエデュテクノロジーが取り組む生成AI・ICTを活用した学びの支援についても考えていきます。
この記事を読むとわかること
ルーブリックの活用によって生まれた、先生の指導観の変化
生徒と共に考え、探究を深める「伴走者」としての関わり方
生成AIやICTを活用して、生徒の学びと先生の指導を支える方法
目次
探究学習という「答えのない問い」に挑む、先生の指導観の進化
「正解を教える人」からの役割の変化
探究学習において、先生方が抱える悩みの一つが「生徒が選んだ多様なテーマに対し、自分がすべてを指導できるわけがない」という不安です。
生徒の興味・関心によって探究のテーマはさまざまです。先生自身の専門分野ではないテーマや、すぐに答えが見つからない問いに向き合う場面も少なくありません。
教科学習では、先生が「正解」を持っており、知識や考え方をわかりやすく伝えることが大切です。一方、探究学習では、生徒自身が問いを立て、試行錯誤しながら考えを深めていく過程を支えることが求められます。
昴学園の山﨑先生は、エデュテクノロジーのアセスメントデザイナー髙木俊輔による学習評価研修と、独自のルーブリックの開発・活用を通じて、指導観に変化が生まれたといいます。
「ルーブリックを作成し、生徒自身が現在地を把握できるようになったことで、先生は『答えを教える人』である必要がなくなりました。生徒と一緒に悩み、『それ面白いね、どうすればもっと深まるだろう?』と問いを投げかけるファシリテーターへと、自然に役割が変わっていったのです」

生徒自身が目標や次のステップを確認できるようになると、先生も一つひとつ答えを示すのではなく、「どうしてそう考えたの?」「ほかに確かめる方法はあるかな?」と問いかけながら、学びを支えられるようになります。
どのような人材育成を目指すかの共通言語になる
また、ルーブリックは生徒のためだけのものではありません。
「ルーブリックは、生徒へのフィードバックの基盤となるツールであると同時に、先生方が『どのような人材育成を目指すのか』というビジョンを共有するための共通言語でもあります。先生方が集まり、『この行動はレベル3だ』『いや、この視点があればレベル4ではないか』と議論を重ねるプロセス自体が、最高の教員研修となるのです」
ルーブリックを作成する過程では、先生方が「どのような力を育てたいのか」「どのような姿を成長と捉えるのか」を話し合い、評価の観点を共有していきます。
さらに、昴学園では一度作ったルーブリックを完成品とせず、常に「β版」と位置づけ、授業で使いながら改訂を重ねています。
こうした対話や見直しの積み重ねは、先生方自身が探究学習の目的や指導のあり方を考え、学び合う機会にもなります。
ルーブリックは、生徒の成長を支えると同時に、先生方が共通の目標を持って探究学習に取り組むための「共通言語」にもなるのです。
生徒と一緒にワクワクする「伴走者」へ
山﨑先生のお話の中で特に印象的だったのが、野球部の生徒が「木製バットの材質」をテーマに探究したエピソードです。
その生徒は、野球用品メーカーのバット職人にインタビューする機会がありました。
そこで生徒が考えていたのが、「重いバットと軽いバット、どちらがボールを遠くへ飛ばせるのか?」という問いです。
重いバットの方が遠くへ飛ぶのか。
それとも、軽いバットの方が速く振れて、飛距離につながるのか。
生徒が答えを見つけられずにいたとき、職人は直接結論を教えるのではなく、「運動エネルギーの公式(E=1/2mv²)」をヒントとして提示しました。
この公式では、運動エネルギーは質量(m)に比例し、速度(v)の2乗に比例します。
つまり、重さだけではなく、どれだけ速く振れるかという視点です。
物理を基礎から履修していない生徒に対し、質量(m)よりも速度(v)の2乗がエネルギーに大きく影響することを伝えたところ、生徒は「重いバットより、軽くても速く振れるバットの方が飛ぶのか!」と目を輝かせて納得したそうです。
実際の打球の飛距離はさまざまな条件によって変わりますが、この公式をきっかけに、生徒は新たな視点から自分の問いを考えられるようになりました。
生徒と共に学び、伴走することの面白さ
このエピソードが、山﨑先生自身にとっても、探究学習を楽しむきっかけになったといいます。先生がすべての専門知識を持っていなくても、生徒と一緒に悩み、考え、学びを深めることはできます。
ときには学校の外にいる専門家の力も借りながら、生徒の興味や疑問を広げていくことができるのです。
先生が「評価者」ではなく、生徒と共に学ぶ「伴走者」へと在り方を変えたことで、生徒の思考力や理解度は劇的に向上しました。大切なのは、先生がすべての答えを用意することではなく、生徒と共に「なぜだろう?」「もっと調べてみよう」と問いを深めていくことなのかもしれません。
生徒が新しい発見をしたときに、先生自身も一緒にワクワクできる。
こうした関わり方は、先生にとっても探究学習の面白さを感じられる、新しい学びの形につながります。
生成AIが支える、個別最適な学びと教員の負担軽減
こうした探究学習を支える手段として、さらなる加速につながるのが「生成AI」の活用です。
探究学習では、生徒一人ひとりのテーマや進度が異なります。そのため、先生がすべての生徒の活動状況を把握し、それぞれに合った声かけを行うことは簡単ではありません。
私たちエデュテクノロジーは、教員の多忙な業務負担を効率化するだけでなく、生徒一人ひとりの学びに寄り添うための「生成AI活用プログラム」の導入支援を行っています。
生徒の思考を深める「壁打ち相手」としての生成AI
例えば、生徒が探究のテーマ決めに悩んでいるときや、情報収集で行き詰まったときに、生成AIを「壁打ち相手」として活用する方法があります。生成AIに答えを出してもらうのではなく、ソクラテス式問答のように、次のような問いを投げかけてもらうのです。
「なぜ、そのテーマに興味を持ったの?」
「別の視点から考えると、どんなことが見えてくるかな?」
「その仮説を確かめるには、どのような方法がありそう?」
このように、対話を通して問いを重ねることで、生徒が自分の考えを整理したり、新しい視点に気づいたりするきっかけになります。これは従来の検索エンジンでは対応できなかった画期的な機能です。
これは、先生の役割を生成AIに置き換えるということではありません。
むしろ、生徒が考えるための選択肢を増やし、先生が一人ひとりと向き合う時間や対話をより充実させるための活用方法です。
学習データと生成AIを活用し、先生の声かけを支える
生成AIの活用は、生徒だけでなく、先生方の指導を支えることにもつながります。
例えば、生徒の活動記録や振り返りを蓄積し、探究の進捗状況を可視化する仕組みです。
生徒が今どの段階にいるのか、どこでつまずいているのかを確認できれば、先生は必要な支援を考えやすくなります。
エデュテクノロジーでは、こうした探究活動の記録を可視化する「探究進捗ダッシュボード」や、生成AIによって生徒への声かけのヒントを提案する仕組みの提案を進めています。(資料はこちら)
例えば、ルーブリックと生徒の振り返りをもとに、生成AIが「次にどのような質問をすれば、生徒の考えを深められるか」という問いかけの案を示す活用方法です。
先生は、その提案を参考にしながら、生徒の状況に合った声かけを考えることができます。
また、私たちが提供する「ICT × 学びアンケート」では、児童生徒のアンケート回答をもとに、思考力や表現力などの変容をデータとして可視化し、授業改善に活用することができます。
ルーブリックによる評価、探究活動の記録、アンケートによる変容の把握など、それぞれの情報を目的に応じて活用することで、生徒の成長を多面的に捉えるための手がかりが得られます。
ただし、データだけで生徒の成長を判断することはできません。先生が日々の活動や生徒の言葉を丁寧に見とりながら、必要な支援を考えていくことが大切です。
生成AIは、先生と生徒の対話を支える存在
生成AIを教育現場で活用する際には、便利さだけでなく、情報の正確性や個人情報の取り扱いなどにも注意が必要です。
また、AIが示した回答をそのまま受け取るのではなく、生徒自身が考え、判断する機会を大切にすることも欠かせません。
ルーブリックで学びの方向性を共有し、生成AIで考えを広げ、先生との対話によって学びを深める。それぞれの役割を生かすことで、生徒の主体的な探究を支える方法を考えられます。
まとめ 〜先生も生徒も、共に学びを深めるために〜
ルーブリックを活用して評価のあり方を見直すことは、生徒の主体性を支えるだけでなく、先生自身の指導観を見つめ直すきっかけにもなります。
三重県立昴学園高等学校の山﨑先生の実践から見えてくるのは、先生がすべての答えを持っている必要はなく、生徒と一緒に悩み、発見を喜びながら学びを深めていくことの大切さです。

さらに、生成AIやICTを適切に活用することで、生徒の学びの状況を把握し、一人ひとりに合った支援を考えるための新しい選択肢も生まれます。大切なのは、技術を導入すること自体を目的にするのではなく、先生と生徒が共に学び、考える時間をより充実させることではないでしょうか。
まずは、普段の探究学習で生徒にどのような問いを投げかけているか、先生同士で共有することも一つの方法です。
私たちエデュテクノロジーは、学習評価の理論と実践をつなぐ教員研修から、生成AIやICTの活用支援まで、学校ごとの状況や課題に寄り添いながら、先生方と共によりよい学びづくりを進めていきます。
探究学習における先生の役割と生成AIに関するよくある質問
Q. 生徒の探究テーマについて、先生が専門知識を持っていない場合はどうすればよいですか?
A. すべてのテーマについて先生が答えを知っている必要はありません。生徒と一緒に疑問を整理し、「何を調べればよいか」「どのように確かめられるか」と問いかけることも、探究を支える大切な指導です。必要に応じて、ほかの教科の先生や地域の専門家などと連携する方法もあります。
Q. 生成AIは、探究学習のどのような場面から活用できますか?
A. 例えば、探究テーマを考えるときや、仮説を整理するときに、生成AIを問いかけの相手として活用する方法があります。まずは活用する目的や場面を決め、学校の利用ルールや生徒の発達段階を踏まえながら検討するとよいでしょう。
この記事の執筆者

羽生 真理子
株式会社エデュテクノロジー DX推進マネージャー
2013年より教育系企業において、全国の中学・高校・大学、200校以上のキャリア教育・探究学習の構築や産学連携をコーディネート。その傍ら、新規事業企画マネージャーとして、法人向けの組織改革や、次世代リーダー育成研修講師、地方創生×探究学習の自治体との共同プロジェクト推進。
株式会社エデュテクノロジーの関連支援サービス
生成AIガイドライン策定支援
文部科学省ガイドラインの改定を踏まえ、自治体・学校の実情に合わせた利用方針の策定を支援します
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